ヘリテージ

 

 ヘリテージとは遺産、継承物、伝統、伝承などといった意味を示します。建築では、文化財建造物、古社寺建築、古民家などの古建築を主な意味として扱います。これらの古建築は地域の文化、景観を特徴づけることもあり、維持保全、利活用していくことは地域文化の伝承と活性化につながるとも考えます。しかし、これらの建物を健全に維持保全していくことは、一般の建築とは少し違った専門的な知識が必要で、利活用もこれらの知識に基づき計画していくことが大切です。
 兵庫県では、1995年の阪神・淡路大震災で消滅した文化財的価値の高い建造物の維持管理、利活用をサポートする専門家の育成を全国に先駆けて養成しました。この専門家をヘリテージマネージャーと呼びます。
 当事務所も、2002年以降ヘリテージマネージャーとして、日常業務はもとより、様々な活動を継続的に行っています。

 

文化財建造物の維持保全
 
 文化財建造物の健全な維持保全のためには、経年劣化していく建造物を修理改修するだけではなく、その文化財の位置づけで、その修理の方法は様々な制約があります。指定文化財等はその建造物の原状を保存することを原則として維持保全、利活用していくことが大切です。

◆事例は、神戸市内にある寺院の本堂が、雨水漏水により修理が必要となったために、屋根の葺き替え工事等を行った時の工事工程写真です。他事務所の技術協力として工事監理業務から工事報告書作成までを行いました。

 ・現状の屋根は銅板葺きの屋根ですが、創建時から昭和の中頃までは本瓦葺きの屋根であったことが先の調査で明らかでした。
 ・今回の修理では、本瓦葺きに復原するこも修理工事の目的となりました。
 ・これからの維持保全のために耐震補強工事も合わせて行いました。
 ・文化財の修理では、原状の材料の再利用、工法を継承しながら保存修理していくことが原則です。
 ・修理に先立つ解体工事では、建物に使用されている材料、工法等をその痕跡等をたどって注意深く調査し、修理の方針を決定します。
 ・修理に際し、新しい材料、工法等をやむを得ず使用するときは、そのことが後世に明確に解るよう材料に刻印したり、記録を残します。
 ・工事が完了すると、工事中の調査、工事状況をまとめた修理工事報告書を作成し保存します。

 
 
歴史的建造物の利活用

 指定文化財でないとはいえ、創建時から相当の年月の経つ歴史的建造物もその経年と共に老朽劣化していきます。これらの建造物も、その所在する地域に根付き、地域文化の継承の一端を担ってきました。ですから、老朽化を理由に安易に建て替えるのではなく、可能であれば修理保全する方が、地域の伝統を継承していくためにもふさわしい時があります。これらを判断するにも、専門的な知識を有した人材による注意深い調査の結果、建て替えるべきか、修理保全していくべきかを、関係者と共に協議、提案し方針決定していくことが大切と考えます。

◆事例は、兵庫県加東市に所在する神社の本殿です。他事務所からの依頼で実測、老朽化調査、現況図作成、修理方針提案を行いました。

 ・書物、文献などから神社の歴史的背景を調査しました。
 ・社殿の実測調査から、使用されていたモジュール、工法、老朽劣化の程度、不具合の調査を行いました。
 ・調査結果に基づき現況図を作成、方針を考察し修理計画を提案しました。

登録文化財建造物の利活用のサポート

 ヘリテージマネージャーとして、歴史的な建造物の調査や、修理設計等のハード面はもとより、その施設を維持保全継承、利活用していくことをしなければ、その意味が皆無といっても過言ではないと思います。ヘリテージマネージャーとして、施設の所有者、利用者にこれらのサポートをすることも大切な役目であると考えます。

◆旧小河家住宅は、兵庫県三木市に所在する国の登録文化財建造物です。建物も登録文化財にふさわしい由緒ある建造物ですが、この施設は庭園も国の登録記念物(名勝地)に登録されています。現在は三木市に寄贈され、三木市所有の施設となりましたが、民間所有時の相続問題等、様々な難題を解決して来た経緯を振り返ると、もと所有者の並々ならぬ本住宅への愛情とご苦労を察します。寄贈前から、ヘリテージマネージャーとして様々な活動をサポートし、寄贈後も継続して保存活用の会のメンバーとして係わっています。